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キツネの神様の頼みごと その7
「殺される!」
奥さまの声は一刻の猶予も無い様子だった。
話を聞くよりすぐ向かった方が無難なようだ。他の仕事を断って小谷家へと車を飛ばした。
到着する車の音に気が付いたのか、車が着くなり、奥さまが玄関から出てこられた。
顔色は青ざめ、夏なのに長袖の服。
「どうされました。」私の言葉に奥さまは家の中を気にするようにドアを閉め、外で立ち話になった。
「お恥ずかしい話ですが・・・・」
時折、閉めた玄関のドア越しに家の中を気にするかのように、小声で話し始められました。
実は、息子さんが離婚してこの家に帰ってきたのが半年前。
傷つきながらも一生懸命立ち直ろうと仕事を探し始めた息子さん。
「大丈夫ゆっくり探しなさい。お母さんが付いているから」
そう言いながらも、この不景気でなかなか思うように仕事が見つからない。
しかし、気落ちする息子に、まるで傷口に塩を塗るかのように
「甘やかすんじゃない!一人前の大人がなんてざまだ」
冷たく言い放つご主人。
息子さんは次第に部屋に閉じこもるようになっていった。
息子さんの様子がおかしくなりだしたのもその頃からだ。
そしてついに、奥さまに対して当たり散らすようになった。
息子がこんな風になったのも、傷ついた息子にあんな冷たい態度をとる主人のせい。
息子は犠牲者だ、かわいそうに。そう思って息子の乱暴な仕草に暫くは耐えていた奥さま。
しかし、息子の暴力はだんだん激しくなり、先日は息子に左目を殴られて目の上が切れてしまったとのこと。
それでサングラス。
昼間は部屋に閉じこもってほとんどベッドの中で寝ていることが多くなり
夕方になるとお腹が空いたと言って起きてきては大声で催促をする始末。
食事が気に入らないとテーブルの上をむちゃくちゃにしたあげく、殴りつけてくる。
あんなに大人しくて優しかった息子が
「くそババア!!」「殺すぞ!」と、まるで別人のように怒鳴り散らす。
ご主人が帰宅するころにはまた部屋に戻って閉じこもっているので、ご主人はまだ気が付いていない。
「もともと主人は息子に対して無関心ですから。
でも今の息子の状態で、あの冷たい態度をとったら、その時は間違いなく主人は息子に殺されます。」
奥さまは平気でそう言われる。
「しかし、いくら相手が実の父親といえ、そんなことしたら息子さんは間違いなく殺人罪に問われますよ。」
「いいえ。息子はすでに狂っています。精神鑑定をしたら、罪には問われません。」
そこで、残された自分と息子の為に10億が必要となるわけか。
どう考えても一家全員考え方がおかしくなっているとしか思えない。
しかし、当の奥さまは理論的だと思っているみたいだ。
「皆さん話を聞かれたら息子のことを同情されるはずです。」奥さまはそう言い切られる。
しかし、それではなぜあの時保険の話をすぐまた断られたのか疑問が残る。
すると突然、家の中から怒鳴り声が聞こえた。
「くそババアー!なにしてやがる!」
あわてて、ハッと青ざめた顔の奥さまが私の目を見た。
奥さまの目は無言で助けを求めていた。
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