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キツネの神様の頼みごと その10
解決策が見つからないまま朝を迎えた。
ホテルに奥様を迎えに行くと、すでに奥様はロビーに座って私を待っていた。
表情からして昨晩は眠ることが出来なかったみたいだ。
携帯には息子からの着信歴がこれでもかというくらい残っている。
「怖くて、後では携帯の電源を切ってしまいましたが、大丈夫でしょうか。」
奥様が不安そうに聞かれた。
「大丈夫です。多分息子さんも昨夜はいらいらして一晩中寝ていないはずです。今時分はベッドのなかで熟睡だと思いますよ。」
それでなくてももののけは昼間は力が弱まるはず。
策を練ってる暇は無い。行ってみるしかない。
玄関を開けると、なんと息子が立っていた。
奥様は腰を抜かさんばかりに驚いて、とっさに私の後ろに隠れた。
すると息子は信じられないくらいの優しい顔をして
「お母さん何してるの」
気持ち悪いくらいの笑顔で出迎えた。
「しんぱいするじゃない。他所に泊まるのはかまわないけど、だめだよ、何処に泊まるかぐらい連絡してくれなくちゃ。」
そう言って、私の後ろの母親の手を掴んで無理やり家の中に引き込んだ。
そして
「母を送ってくださって、ありがとうございました。」
そう言って玄関を閉めようとした。
このまま帰るわけにはいかない。
「すみません。まだお話が残っております。」そう言って私が中に入ろうとすると、
「僕が入るなと言っているのが分からないんですか。不法侵入で訴えますよ。」
語尾が押さえきれずに荒くなっている。
しょうがない正面からぶつかるしかない。
「あなたは自分がやっていることが分かっているんですか。正気に戻りなさい!もののけなんかに取り憑かれて!本当はお母さんを守りたいのでしょ。怨んでいるのはお父さんでしょ。」
そう言った途端、息子に憑いてるもののけが正体を現した。
「ばかやろう!親父なんかどうでもいい。俺が怨んでいるのはこいつだ!」そう言って母親のほうを睨み付けた。
奥様はもう訳が判らず部屋の隅で震えて固まっている。
「こいつが俺を甘やかすから、俺はいつまでたっても一人歩き出来ないんだ。俺だって分かってるんだ、努力とか、我慢とか。でも俺が今度こそと思うとこいつが手を出す。
その上こいつは親父を憎んでいるくせに、金のために一緒にいる汚いやつだ。そしてその汚い金で俺を助けようとする。
俺はその汚い糞まみれの中で生きているんだ。」
「馬鹿なこと言わないで!人のせいにしてるだけじゃない。あなたが根性が無いだけでしょ。ちゃんとお母さんと話せばいいじゃない。もののけなんかに肩代わりしてもらってどうすんのよ!」
すると息子はやおら、近くにあったナイフを手にして部屋の隅の母親に刃先を向けながら叫んだ。
「うるさい!がたがた言うな!」
奥様は顔は蒼白、まったく身動きがとれない、腰が抜けて逃げることも出来ない状態。
やばい!!
どうにかして、もののけの動きを封じ込めなければ。
「ノウマクサーマンダ・バーザラダン・・・・・・・」真言を唱え印を結ぶ。
繰り返し繰り返し、真言を唱え、印を結ぶ。
かなり抵抗しながらも、やっと息子の動きが止まった。
真言でもののけを一時的に押さえ込んではいるが、しかしそれも長くは持たない。
それにずっとこのまま押さえ込んでいるわけにもいかない。
ちょっとでも力を抜けば、いつまた暴れだすかわからない。
どうにかして息子に取り憑ついているもののけを追い出さなければ。
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