キツネの神様の頼みごと その11

このままもののけを真言の力で抑え込んでいても、暴れだすのは時間の問題だ。
どうにかしなければ。

その時、ふとキツネの神様の言葉を思い出した。
「引き離すのに外からは無理。息子自身が追い出さなくては」

そこで、もののけを封じ込めている間に、奥深く逃げ込んでいる息子に話しかけてみた。

「ちょっと聞こえる。あなたねえー、見ない振りして逃げ込んでるけど、わかってるの!お母さんを自分の手で殺そうとしてるのよ。
もののけはね、あなたの心に同調してるけど、やってることは常識からぶっ飛んでるのよ。」

息子に聞こえることを願って大声で言ってみた。

「自分の弱さをお母さんのせいにしてるけど、お母さんを本当は大好きなんでしょ。自分の手で殺してもいいの。

あなた本当はお母さんを自分で守りたいんでしょ。それが弱くて出来ないから苦しんでいるんでしょ。
もののけに身体奪われて、守りたいと思ってるお母さんを逆に殺しちゃったら本末転倒じゃない!それでもいいの!」

思いっきりまくし立てた。

しまった!息子を説得する間真言を唱えられなかったので、封じ込めた力が緩みだしたみたいだ。
息子のナイフを持つ手が細かく震えだした。やばい!!あわててまた真言を唱えだす。
「ノウマクサーマンダ・・・・・・・」

ひたすら逆らうように息子の手が震え出しはじめた。やばい押さえが溶ける。繰り返し唱える真言も効き目がなくなったかと思った矢先、

息子の手からナイフがポロっと下に落ちた。そして、そのまま息子は崩れるように前に倒れこんだ。

何が起きたのかと遠目で窺っていると、倒れた息子が突然「げっぼっ!!」と身体をゆすって何かを吐き出した。

吐き出されたのは小さな子狐。

「けっ!!いいとこだったのに、こいつ最後に俺様を裏切りやがった!!」

以前見えたもののけの姿からは想像も出来ないほどの小さな子狐。かなり生意気そうなひねた目つき。
するとそこに例の真っ白なキツネの神様が現れた。

キツネの神様を見ると、あわてたように子狐はそこから逃げ出そうとした。
その子狐の尻尾を神様は前足でポンと踏みつけ、ばたばたもがく子狐を気にもせず話しはじめられた。

「かわいい子狐じゃろ。ちょっとひねくれてはおるがの。あんたらが見た姿はあれは見せかけの張りぼてじゃ。あんたらの恐怖が作り出すんじゃ
怖がれば、怖がるほど恐怖のエネルギーを取り込んでどんどん大きくなる。もののけの力とはそういうもんじゃ。本当は生きてる人間のほうが強いんじゃ。」
「この一家はもう大丈夫なの」

「息子を甘やかさんことだ。楽をさせることが愛情じゃない。
子供の苦労する姿をじっと見ている事も親の愛情だ。
そうしないといつまでたっても子供は一人で歩くことができない。

独り立ちできないことほど、子供の魂にとって苦しいことは無い。

「甘やかし」という綱でぐるぐる巻きに縛り付けている親から必死になって逃げようとしておったんじゃ。
そこを分かって母親が変われば息子も変わると思うがの。」

キツネの神様は、諦めずにまだ逃げようとばたついている子狐の首根っこをパクっとくわえると、そう言うなり、ぺこりと頭を下げてまた何処かに消えて行かれた。

あとに残された放心状態の奥様。さすがに今のが見えたみたいで、
「なんだったんですか、今の白いのは。」もう何がなんだか分からない状態。

一通り説明すると奥様は涙を流しながら、まさか息子がおかしくなった原因が自分だったとは思いませんでした、とつぶやいた。
「たしかに私が息子の姿を見ていられなかったんです。苦労している息子が惨めで、私が食べさせてあげればよいと思っていました。結局、私が息子を信じられなかったことが原因なのですね。」

愛情が強ければ強いほど、子供には苦労をさせたくないと思うのが親心。
しかし、かえってそれが行き過ぎると過保護となり、現実の社会で生きてゆくには弱すぎる子供にしてしまう。

そんな傷つきやすい弱い心に「もののけ」は入り込む。

家庭内暴力、リストカット、攻撃が外に向くか、自分に向くかの違いで、原因は小さい頃からの親の過干渉がほとんど。

子供自身よりも親が変わらなければ解決しない。

我が子を信じて、ただ黙って見ている勇気。

本当の愛情とは何か。本当の幸せとは何か。そのことに気が付いた時、問題は解決へと向かいます。

小谷家ではその後、奥様はご主人と離婚され、
息子さんは高給取りではありませんがそれでもちゃんと仕事に就き、今も奥様と一緒に暮らしていらっしゃいます。

「経済的に楽と言えませんが、それでも今は本当に幸せです。」

奥様からの手紙にはそう書かれていました。
人として生きるために本当に必要なことに気付かれたみたいです。

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スピリチュアルカウンセラーYUMI